○対馬正子氏詩集『霄の花』
大宮詩人会叢書第四期(20) 2002.5.20 埼玉県さいたま市 大宮詩人会叢書刊行会 発行 1300円 帰郷
呼び寄せられた地(ち)の音(ね) 地の魂(たま)
のエネルギーに湧き返えり あふれて ふるさとのまつり
ねぶた祭りを 小学生の息子にも一目見せようと
二十年ほど前に勤めた会社のビルの前に立つ
土地の ほっかむりのおばあさん
基地駐在のアメリカ兵士
ビールを空ける東京本社の部長さん 遊山でやって来た
その席を確保してまつり上げる支店長
日焼けした津軽弁の車長(※)さん…
観客はさまざまな位置から
一つの祭りを見ている けれど
日本の経済成長の春と 思春期が 重なる世代の私
華やかに化粧して日日変貌してゆく
生き生きとした中央の陰に蔑まされ
時間の止まったまま萎びてゆくだけの惰性に
若い呼吸をいらだたせて憎んだこともある ふるさと
それでも 嗅覚にたたまれた潮風は
ふるさとへ帰って来た私の頭を
ひたひたと隔てなく撫でまわし ときほぐす
----よぐ来たねぇ と
極彩色に色どられた巨大武者たちが
地の魂(たま)のあかりに伝説を浮かばせて
宵闇の目抜き通りをねり歩くころ
ふるさとの海も潮位を上げてゆく
ラセラ・ラセラと跳(は)ね人(と)たち
いのちを雪(すす)ぐ脂粉の 汗が飛ぶ
アメリカ兵士も跳ねる 観客は湧き上がる
ドンツクドンツクドドンツク
ドンツクドゴさ行ってたのさ
ナンボガ捜していだんだガサ
地の中に眠る「虫」たちも叩き起こされ
若者が叩く太鼓のバチは
雑踏ではぐれた日の母の鞭 となって
私の五臓にビシリと響き 体を金縛りにする
都会人に成りすました女は 突然涙を拭く
寄り添う息子が ぎゅっと握る片手の もう一方で
(※ 社有車運転手)
著者は青森県津軽地方出身、埼玉県在住。この詩集は1989年の第一詩集より13年振りの第二詩集だそうです。全編に津軽の匂いがあって、惹き込まれる思いで拝見しました。私は北海道の、道央生れですから、直接津軽とは関係ないんですが、同じ体温を感じる詩集です。
紹介した作品は、おそらく10年も前に書かれたのではないかと思います。最近書かれたらしい作品とはちょっと趣が違うのですが、故郷に対する愛憎と母子三代の絆がさりげなく描かれていて、一番好感を持った詩です。「都会人に成りすました女」という言葉に著者の冷静な分析を感じ、「雑踏ではぐれた日の母の鞭」や「寄り添う息子が ぎゅっと握る」には血の濃いつながりを感じて、私たちが無くしていったものを思い知らされる気がします。そんなことを感じさせられた詩集でした。村山精二さんの詩のホームページ「ごまめのはぎしり」から引用させていただきました。